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最高裁判所第三小法廷 昭和63年(オ)955号 判決

上告人

甲 村 一 夫

上告人

甲 田 春 子

上告人

甲 本 夏 子

右三名訴訟代理人弁護士

吉 田   清

山 田   博

被上告人

甲 村 二 夫

被上告人

甲 川 秋 子

右両名訴訟代理人弁護士

楠 田 堯 爾

加 藤 知 明

田 中   穰

被上告人

甲 村 三 夫

被上告人

甲 宗 冬 子

右両名訴訟代理人弁護士

初鹿野   正

主文

原判決を破棄する。

被上告人らの各控訴を棄却する。

控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人吉田清、同山田博の上告理由について

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、これに押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和六二年(オ)第一一三七号平成元年二月一六日第一小法廷判決・民集四三巻二号四五頁)。

これを本件についてみるに、原審は、(一) 上告人ら及び被上告人らの被相続人である甲村花子は、昭和五七年五月三〇日付で第一審判決別紙遺言書目録二記載の遺言をした、(二) 花子は、昭和五八年一〇月二〇日、名古屋市千種区観月町所在の株式会社名古屋の事務所において、右遺言を取り消す旨の前記目録一記載の遺言(以下「本件遺言」という。)をした、(三) 本件遺言書は、花子が自ら、その全文及び日附を記載した上署名し、その署名の下の部分に指印をしたものである、との事実関係を適法に確定しながら、自筆証書遺言において要求される押印としては、印章による押捺が必要であって、これに代えて指印をすることでは足りないとの見解のもとに、本件遺言は押印を欠く点において法の要求する方式を欠き無効であるとし、本件遺言の無効確認を求める被上告人らの本訴請求を棄却した第一審判決を取り消して右請求を認容したものであるから、前記の説示に照らし、原判決には法令の解釈適用を誤った違法があるものというべきであり、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した前記の事実関係によれば、本件遺言書はその方式に欠けるところはないものというべきであり、かつ、本件遺言の成立の過程に、被上告人らが主張するような上告人甲本夏子及び同甲田春子による強迫があったものといえないことも原審の適法に確定したところであるから、被上告人らの本訴請求は失当として棄却すべきものであり、したがって、これと同旨の第一審判決は正当であって、被上告人らの各控訴は棄却すべきである。

よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

上告代理人吉田清、同山田博の上告理由〈省略〉

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